老朽化マンションの現実と再生

   
高度経済成長期からバブル期にかけて、
日本各地で大量に供給された分譲マンション。
とりわけ1960~80年代に建てられた物件は、
いま築40年、50年を超え、
いわゆる「老朽化マンション」として
新たな局面を迎えています。
国土交通省の統計でも、
築40年以上の分譲マンションは
今後急増すると予測されており、
この問題は一部の所有者だけでなく、
都市政策や地域コミュニティ全体に関わるテーマになりつつあります。
住まいの“寿命”と資産価値をどう守るか。
それはこれからの不動産市場を読み解くうえで避けて通れない論点です。

老朽化の正体――建物と人の二重課題

   
老朽化マンションの問題は、
単なる築年数の経過では語れません。
大きくは「建物の物理的劣化」と「
管理・合意形成の難しさ」という
二つの側面があります。

物理的劣化

  
コンクリートの中性化や
鉄筋の腐食、
屋上防水の劣化、
外壁タイルの浮きや剥落、
給排水管の老朽化など、
目に見える部分も見えにくい部分も
確実にダメージは進行します。
  
特に配管設備は
更新時期を迎えると多額の費用が必要です。
また1981年の新耐震基準以前に建築確認を受けた、
いわゆる「旧耐震」マンションは、
耐震性能への懸念から
市場評価に影響を及ぼすケースもあります。
耐震診断や補強工事によって
安全性を高めることは可能ですが、
費用と合意形成が壁になります。

人の高齢化も影響?

  
もう一つの課題が“人”です。
築年数の経過とともに
区分所有者の高齢化が進み、
賃貸化や相続による所有者不明化も増えていきます。
管理組合の理事のなり手不足、
総会の出席率低下、
修繕積立金の滞納――
こうした問題は建物以上に深刻です。
老朽化とは、建物とコミュニティが同時に年を重ねる現象でもあるのです。

修繕による長寿命化という選択

   
すべての老朽化マンションが「終わり」に向かうわけではありません。
適切な修繕と計画的な資金管理がなされていれば、
築40年、50年を超えても十分に機能し、
むしろ“味わい”や希少性を持つ物件として評価される例もあります。
弊社がよくお取引に入らせていただく、
北摂エリアのマンションは、
適切なマンション管理がされているマンションが多いです。
  
一般的に大規模修繕工事は
12~15年周期で実施されますが、
近年は単なる原状回復にとどまらず、
長寿命化や性能向上を目的とした改修が注目されています。
給排水管の全面更新、
サッシ交換による断熱性能向上、
LED化や省エネ設備の導入、
エントランス改修による資産価値向上など、
戦略的な投資を行う管理組合も増えています。

重要な点は?

  
重要なのは、
長期修繕計画が現実的な数値に基づいているかどうかです。
マンション管理士として、
某管理会社の担当により相談を受けますが、
35年の修繕計画が現実的ではないものも見受けられます。
  
積立金が低く抑えられたままでは、
いずれ大幅な値上げや一時金徴収が避けられません。
購入希望者にとっては、
築年数以上に「管理の質」が問われる時代になっています。

「建替え」という再生のシナリオ

  
一方で、
抜本的な解決策として語られるのが建替えです。
建物の安全性や機能性を根本から改善でき、
容積率の余剰があれば住戸数を増やすことで
事業収支を成立させることも可能です。
特に都市部では、
再開発と連動して
建替えが実現する事例も見られます。

しかし現実にはハードルは高いのが実情です。
区分所有法では、
原則として区分所有者および議決権の
各5分の4以上の賛成が必要です。
反対者への対応、
仮住まいの確保、
高齢者の生活不安、
追加負担金の問題など、
乗り越えるべき課題は少なくありません。
郊外型マンションでは、
建替え後の販売価格が事業費を上回らず、
採算が合わないケースもあります。

建替えは“理想解”であっても、“現実解”とは限らないように感じます。

資産価値の分岐点

   
老朽化マンションの資産価値は、
立地と管理で大きく二極化します。
駅近や都心部など希少性の高いエリアでは、
築古であっても一定の需要があります。
リノベーション前提で購入する層も増え、
中古市場は活況を呈しています。
   
一方で、
人口減少が進む地域や競合物件の多い郊外では、
築年数の進行とともに価格下落が加速する傾向があります。
空室率の上昇は管理費収入の減少につながり、
修繕計画にも影響を与えます。
いわば「負のスパイラル」に陥るリスクがあるのです。
  

どう対処するか?

  
売却を検討する場合、
大規模修繕直後は印象が良く、
価格も安定しやすい傾向があります。
逆に修繕前や積立金不足が顕在化している場合は、
価格調整を余儀なくされるでしょう。
将来的な建替え期待がある物件は
プレミアムが付くこともありますが、
それは確定的なものではありません。

行政支援と市場の進化

   
近年、行政も老朽化マンション対策を強化しています。
耐震改修補助制度や管理計画認定制度など、
管理の適正化を促す仕組みが整備されつつあります。
管理状況の“見える化”が進めば、
適切に運営されているマンションが市場で評価されやすくなるでしょう。
  
さらに、不動産テックの進展により、
オンライン総会や電子投票の導入も広がっています。
遠方に住む所有者でも
議決権を行使しやすくなり、
合意形成のハードルは徐々に下がっています。
テクノロジーは、
老朽化問題の“縁の下の力持ち”になる可能性を秘めています。

これからのマンションの寿命

  
鉄筋コンクリート造の建物は、
適切な維持管理がなされれば
60年、70年以上使用可能とも言われます。
しかし、それは自然に実現するものではありません。
計画的な修繕、
透明性の高い管理運営、
住民同士の協力関係があってこそ実現するものです。

まとめ

   
老朽化マンション問題は、
単なる建築技術の課題ではなく、
「所有と責任」「共同体の成熟度」を問うテーマでもあります。
  
区分所有という制度は、
利害の異なる人々が
一つの資産を共有する仕組みです。
その難しさと可能性をどう活かすかが、
将来を左右します。

人口減少社会において、
すべてのマンションが建替えられるわけではありません。
修繕を重ねて住み継ぐのか、
再生に挑むのか、
あるいは売却という選択をするのか。
重要なのは、
問題が顕在化する前から情報を集め、
将来像を描き、行動することです。

老朽化マンションは決して“終わった資産”ではありません。
適切な管理と意思決定があれば、
再生し続けるストックになり得ます。
住まいの未来をどう描くのか。
その答えは、
築年数ではなく、
そこに関わる人々の姿勢と覚悟の中と考えます。

 

kugata2 (1)
この記事を書いた人
株式会社KN不動産 代表取締役社長
久賀田 康太

寝屋川高校卒
関西大学法学部卒
住友不動産販売株式会社を経て、現職
(保有資格)
宅地建物取引士
マンション管理士
賃貸不動産経営管理士
管理業務主任者(未登録)
 


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