不動産取引業界において「繁忙期」と呼ばれるのは、
主に1月から3月にかけての時期です。
毎年ほぼ同じタイミングで市場が活気づき、
賃貸・売買ともに取引件数が大きく伸びます。
背景にあるのは、
日本特有の「4月スタート」の社会構造です。
企業の人事異動、新卒入社、大学進学など、
人生の節目がこの時期に集中するため、
住まいの移動も一斉に動き出します。
特に都市部では、
大学の合格発表後から一気に問い合わせが増えます。
たとえば、東京大学や早稲田大学などの主要大学周辺では、
合格発表から数日で優良物件が埋まってしまうことも珍しくありません。
受験番号の確認と同時に不動産会社へ連絡する、
という光景もこの時期ならではです。
繁忙期の賃貸市場は、
とにかくスピードが求められます。
良い物件は掲載から数日、
場合によっては数時間で申し込みが入ることもあります。
そのため、検討期間は非常に短くなりがちです。
通常期であれば複数回内見し比較検討するところですが、
繁忙期は「その場で決断」が珍しくありません。
借主側にとってはプレッシャーもありますが、
事前準備をしておくことで冷静な判断が可能になります。
家賃の上限、希望エリア、築年数、駅距離などの優先順位を整理しておくことが重要です。
「絶対に譲れない条件」と「妥協できる条件」を明確にしておくだけで、
意思決定のスピードが格段に上がります。
一方、オーナー側にとっては空室リスクが低い時期ですので、
条件交渉はやや慎重になる傾向があります。
ただし競争力の弱い物件については、
フリーレントや初期費用軽減などのキャンペーンを行うこともあり、
戦略的な募集が行われています。
売買市場も、繁忙期には一定の動きを見せます。
転勤を機に住宅購入を決断するケースや、
年度内に契約を完了させたい法人の売買などが増えるためです。
企業の決算期である3月を意識した動きも見られます。
仲介会社もこの時期は非常に活発です。
たとえば、三井不動産リアルティや東急リバブルなど大手仲介会社では、
内覧件数や問い合わせ数が通常期よりも大幅に増加します。
週末の内覧予約はすぐに埋まり、
売主にとっては好機となります。
ただし、購入希望者にとっては競争が激しくなるため、
価格交渉の余地はやや小さくなります。
住宅ローンの事前審査を済ませておくことが、
良い物件を確保するうえで大きなポイントになります。
繁忙期は、不動産会社にとって
一年で最も忙しい時期です。
営業担当者は連日内見対応に追われ、
契約書作成や重要事項説明、
鍵渡しまで業務が重なります。
管理会社では退去立会いと入居準備が同時進行し、
原状回復工事のスケジュール調整もピークを迎えます。
特に3月下旬は引越しが集中するため、
鍵渡し日が重なり業務量が急増します。
近年ではIT重説や電子契約の導入が進み、
業務効率化が図られていますが、
それでも人的負担は大きいのが実情です。
首都圏では単身者向けワンルームや1Kの動きが顕著ですが、
地方都市ではファミリータイプの需要が同時に伸びる傾向があります。
転勤需要が多い都市では、法人契約の比率も高くなります。
また、再開発エリアや人気沿線では
例年よりもさらに競争が激しくなります。
駅近・築浅・設備充実という条件がそろった物件は、
情報公開と同時に申し込みが入ることもあります。
繁忙期は確かに慌ただしい時期ですが、
同時に選択肢が最も多い時期でもあります。
物件数が豊富に出るため、
条件に合った住まいに出会える可能性も高まります。
大切なのは「焦りすぎないこと」と「準備を怠らないこと」です。
ポータルサイトだけに頼らず、
信頼できる仲介会社へ相談することで、
退去予定物件や未公開情報を紹介してもらえることもあります。
情報の質とスピードが、結果を左右します。
4月以降になると、
市場は徐々に落ち着きます。
いわゆる閑散期に入ると交渉余地が広がり、
じっくり検討できる環境になります。
急ぎでない方にとっては、
あえて繁忙期を避けるという選択も有効です。
不動産市場は常に動いていますが、
1〜3月はその鼓動が最も早まる季節といえるでしょう。
人の移動が集中するこの時期は、
市場原理が最も鮮明に現れるタイミングでもあります。
繁忙期は、
単なる「忙しい時期」ではありません。
住まいを通じて人生の転機が重なる季節です。
だからこそ、流れに飲み込まれるのではなく、
その特性を理解し、戦略的に動くことが大切です。
不動産取引業界の繁忙期は、
挑戦と機会が同時に訪れる特別なシーズンなのです。
久賀田 康太
寝屋川高校卒
関西大学法学部卒
住友不動産販売株式会社を経て、現職
(保有資格)
宅地建物取引士
マンション管理士
賃貸不動産経営管理士
管理業務主任者(未登録)
コラム一覧へ戻る
