2026年4月施行「住所・氏名変更登記の義務化」

不動産を所有している方にとって、
2024年の「相続登記の義務化」は
大きなニュースとなりました。
しかし、その陰で、
より多くの不動産所有者に影響を及ぼす改正が
秒読み段階に入っています。

それが、2026年(令和8年)4月1日から施行される
「住所・氏名変更登記の義務化」です。
   
これまで、登記に関して、
引越しや結婚で住所・氏名が変わっても、
「売却する時についでに書き換えればいい」という認識が一般的でした。
しかし、これからはその「後回し」が法律違反となり、
罰則(過料)の対象となります。
本稿では、不動産実務の観点から、
この大改正をどこよりも詳しく、
かつ分かりやすく解説します。

なぜ今、登記制度がこれほど厳しくなるのか?

   
背景にあるのは、日本の国土を蝕む**「所有者不明土地問題」**です。
よく弊社でも、
「場所がわからない山を持っている」という相談が増えています。
   
現在、日本全国で所有者が特定できない、
あるいは連絡がつかない土地の総面積は、
九州の面積を上回る
約410万ヘクタールに達すると言われています。
この問題は、
公共事業の停滞、
災害復旧の遅延、
空き家の放置による治安悪化など、
甚大な社会的損失を招いています。
そして、先に投稿いたしました
「地面師」の事件の要因になってしまいます。
   
所有者不明化の直接的な原因の約66%は
「相続登記の未了」ですが、
残りの多くは「住所変更の未了」です。
引越しを繰り返すうちに、
登記簿上の住所が数代前、
あるいは数十年前の住所のまま放置され、
現所有者の追跡ができなくなるケースが多発しているのです。
    
国はこの事態を重く受け止め、
「不動産登記簿を常に最新の状態にアップデートする」ことを、
国民の義務として課す決断を下しました。
    

【2026年4月施行】住所・氏名変更登記義務化の4大ポイント

    
今回の法改正において、
不動産オーナーが絶対に押さえておくべきポイントは
以下の4点です。

① 「2年以内」の申請義務化
    
住所変更(転居)や
氏名変更(婚姻・離婚など)があった日から、
2年以内に変更登記を申請しなければなりません。
これまでは期限がなかったため、
画期的な変化と言えます。

② 過去の変更も対象(遡及適用)の罠
    
ここが最も重要な注意点です。
義務化されるのは「2026年4月1日以降の変更」だけではありません。
施行日より前に住所や氏名が変わっていた場合も、
すべて義務化の対象となります。
     
過去に一度も住所変更登記をしていない方は、
2026年4月1日から2年以内(2028年3月31日まで)に
登記を完了させる必要があります。

③ 5万円以下の過料(ペナルティ)
   
正当な理由なく申請を怠った場合、
5万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記の義務化(10万円以下)に比べると額は低いですが、
対象者の母数が圧倒的に多いため、
行政によるチェックが厳格化されることが予想されます。

④ 「海外居住者」への連絡先登記義務
    
グローバル化に伴い、
海外に住むオーナーも増えています。
住民票のない海外居住者の追跡を容易にするため、
国内に住む「連絡先担当者」を登記することが義務付けられます。
    

実務上の「落とし穴」:法人の本店移転と投資用物件

    
個人だけでなく、
不動産を所有する法人にとっても
今回の改正は死活問題です。

法人の「二重の手間」

    
会社(法人)が本店を移転した場合、
法務局で「商業登記(会社の登記)」の変更は必ず行います。
しかし、その会社が所有している「不動産」の住所変更登記まで
手が回っていないケースが散見されます。
2026年以降は、
商業登記を変更しても、
不動産登記を別途変更しなければ義務違反となります。
投資用物件を複数所有している法人は、
物件ごとに登記変更が必要になるため、
管理コストが増大します。

投資用マンション・アパートのオーナー

    
「自宅を買い替えて引越したが、
以前住んでいた(現在は賃貸に出している)マンションの住所が以前のまま」というケースは非常に多いです。
こうした投資家層も、
2028年3月までに
すべての物件の住所を
現在の居住地に統一しなければなりません。

手続きは簡素化されるのか?「住基ネット連携」の光と影

  
「義務化するなら、
役所の方で自動的にやってほしい」という声に応え、
政府はシステム連携を強化します。

自動更新の仕組み(職権登記)

   
法務局が住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)から情報を取得し、
住所変更を検知した場合、
登記官が職権で書き換えを行う仕組みが導入されます。

ただし「自動」ではない
    
職権による変更には、
原則として「本人の承諾」が必要です。
また、法人の場合は
マイナンバー等との紐付けが完全ではないため、
当面は自己申請が基本となります。
「勝手に書き換わっているだろう」という過信は禁物です。

住所変更登記を放置する5つの長期的リスク

   
検索ユーザーが最も懸念する
「放置した場合のデメリット」をまとめました。

売却や融資のタイミングを逃す

    
不動産を売却する、
あるいはリフォームローンを組んで
抵当権を設定する場合、
登記簿上の住所と印鑑証明書の住所が
一致していることが絶対条件です。
急いで売却したい時に登記が旧住所のままだと、
まず変更登記から始めなければならず、
契約のタイミングを逃すリスクがあります。

住所の繋がりを証明できなくなる(保存期間の壁)

    
引越しを3回、4回と繰り返している場合、
登記簿上の「A地点」から
現在の「D地点」までの移動を、
住民票や戸籍の附票で証明しなければなりません。
しかし、役所の保存期間が経過すると、
過去の住所履歴が抹消され、
証明書が発行できなくなることがあります。

上申書や追加費用の発生

    
証明書が取れない場合、
「この土地の所有者は私に間違いありません」という上申書を作成し、
実印を押して提出したり、
当時の権利証(登記識別情報)を探し出したりと、
専門家(司法書士)への報酬が跳ね上がります。

固定資産税の通知が届かない

     
住所変更を怠っていると、
納税通知書が届かなくなるリスクがあります。
これが原因で税金を滞納し、
最悪の場合は差し押さえに発展する可能性もゼロではありません。

過料による信用への影響

   
少額とはいえ「過料」は行政罰です。
特に法人の場合、
コンプライアンスの観点から記録に残ることは避けたいものです。

自分でできる?それとも司法書士?費用と手間の比較

   
多くのオーナーが悩むのが「自分で行うか、プロに頼むか」です。

セルフ申請のメリット・デメリット

    
メリットは、
実費(登録免許税:1筆1,000円)のみで済むことです。
一方、デメリットは平日に法務局へ行く手間や、
オンライン申請のハードルの高さです。

司法書士に依頼する場合

    
報酬の相場は1万円〜2万円程度(物件数による)ですが、
複雑な経緯がある場合や、
複数物件をまとめて処理したい場合には、
確実性と時間の節約という点で大きなメリットがあります。

2026年に向けた「不動産ドック」のススメ

    
義務化がスタートしてから慌てるのではなく、
今から準備を進めるべきです。

登記情報の確認(マイナンバーカードを活用)

   
まずは、
ご自身が所有する不動産の正確な住所・氏名を確認してください。
オンラインの「登記情報提供サービス」を使えば、
数百円で確認可能です。

書類の整理

     
過去の引越しの経緯が分かる「住民票の写し」や、
古い権利証が手元にあるか確認しておきましょう。

一括変更の検討

  
複数の土地(私道部分などを含む)を持っている場合、
変更漏れがないかプロに一括調査を依頼するのも手です。

まとめ:不動産管理は「透明性」の時代へ

   
2024年の相続登記義務化、
そして2026年の住所・氏名変更登記義務化。
これら一連の流れは、
日本の不動産市場を
よりクリーンで透明なものにするための
産みの苦しみとも言えます。
  
「面倒な義務が増えた」と捉えるのではなく、
「自分の大切な資産の権利を、国が認める最新の状態で守る」という意識を持つことが、
これからの時代の不動産オーナーには求められています。

義務化の施行まで、
あとわずかです。
今すぐご自身の登記簿を開いてみませんか?
  

kugata2 (1)
この記事を書いた人
株式会社KN不動産 代表取締役社長
久賀田 康太

寝屋川高校卒
関西大学法学部卒
住友不動産販売株式会社を経て、現職
(保有資格)
宅地建物取引士
マンション管理士
賃貸不動産経営管理士
管理業務主任者(未登録)
 


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