――売主が知っておきたい不動産売却の落とし穴
不動産の売却を検討し始めると、
「媒介契約」「レインズ」「両手取引」「仲介手数料」など、
聞き慣れない専門用語に多く出会います。
その中でも、長年問題視されているのが
「囲い込み」と呼ばれる行為です。
私がこの業界に入った15年程前よりは
少しはマシになったと感じますが、
まだまだ残っています。
一般の売主様にはあまり知られていませんが、
実は売却価格や成約までのスピードに
大きく影響する可能性がある、
不動産取引における重要なテーマの一つです。
囲い込みとは、
売却を依頼された不動産会社が
物件情報を他社に十分公開せず、
自社のみで買主を見つけようとする営業手法を指します。
本来、不動産会社は
専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結した場合、
物件情報を「レインズ(指定流通機構)」へ登録し、
他の仲介会社にも広く紹介できる状態にする義務があります。
これは、物件情報を市場全体に流通させ、
多くの購入希望者を集めることで、
売主様にとって最も有利な条件で売却を成立させるための仕組みです。
しかし一部の不動産会社では、
他社からの内覧希望や紹介依頼に対して
「商談中です」
「申込みが入っています」などと回答し、
実際には案内可能であるにもかかわらず
受付を断るケースがあります。
こうして物件情報を自社内に留め、
自社顧客のみに紹介する行為が、
いわゆる囲い込みです。
広告上は「販売中」と表示されていても、
実質的には市場に開かれていない状態になっていることも少なくありません。
この背景にあるのが、
不動産仲介特有の「両手取引」という報酬構造です。
不動産会社は通常、売主様と買主様の双方から
仲介手数料を受け取ることができます。
自社だけで買主を見つけて成約させれば、
片手ではなく両手分の手数料が入るため、
収益は単純に2倍になります。
例えば3,000万円の物件であれば、
売主・買主双方から
それぞれ約100万円ずつ、
合計200万円前後の報酬が見込めます。
そのため、他社に紹介させず
自社で抱え込みたいというインセンティブが働きやすいのです。
ただし、これは不動産会社側の都合であり、
売主様にとって必ずしもメリットがあるとは言えません。
買主候補が自社顧客のみに限定されることで
競争が生まれにくくなり、
結果として高値売却の機会を逃してしまう可能性があります。
さらに、購入希望者の母数が減るため、
売却期間が長期化し、
最終的に価格を下げざるを得なくなるケースも見受けられます。
本来であれば複数の会社を通じて
広く買主を募れるはずの物件が、
一社のネットワークだけに制限されてしまうことは、
大きな機会損失と言えるでしょう。
実際に「なかなか売れなかった物件が、
媒介契約を別の不動産会社に変更した途端に成約した」という事例も
少なくありません。
物件そのものに問題があったのではなく、
単に情報が市場に十分行き渡っていなかった可能性も考えられます。
囲い込みは、
売主様が気づかないうちに
売却チャンスを減らしてしまう、
見えにくいリスクなのです。
また、囲い込みが横行すると
市場全体の透明性も低下します。
購入希望者にとっては
「良い物件が出てこない」という不満につながり、
結果として不動産流通そのものが停滞しかねません。
このような理由から、
国土交通省もレインズ登録の適正化や取引状況の報告義務を強化し、
悪質な囲い込みに対しては行政指導や処分を行っています。
では、不動産売却を進める売主様は、
どのように対策すればよいのでしょうか。
まず、レインズ登録証明書を必ず受け取り、
登録日や公開状況を確認することが大切です。
加えて、他社からの問い合わせ件数や
内覧実績、広告掲載状況など、
具体的な販売活動の報告を定期的に求めましょう。
説明が曖昧な会社よりも、
販売戦略や集客方法を
明確に提示できる担当者のほうが
信頼性は高いと言えます。
場合によっては、
一般媒介契約で複数社に依頼し、
情報を広く流通させる方法も有効です。
不動産売却は、
多くの方にとって人生で
何度も経験するものではありません。
だからこそ、情報格差が生まれやすく、
知らないうちに不利な条件で進んでしまうことがあります。
「囲い込み」という言葉と仕組みを理解しておくだけでも、
取引の結果は大きく変わります。
大切な資産を適正価格で売却するためにも、
売主様ご自身が不動産会社任せにせず、
主体的に情報を確認しながら進める姿勢が何より重要です。
正しい知識こそが、
安心できる不動産売却への第一歩と言えるでしょう。
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